廃業目前から売上10倍以上へ──元祖鯱もなか本店・古田憲司が100年の味で狙う“名古屋名物といえば”の座

YouTube番組「THE BOSS 〜経営者のルール〜」密着取材

壇蜜さんと、弊社代表・道川内 知がMCを務めるYouTube番組「THE BOSS 〜経営者のルール〜」で、密着取材をさせていただきました。この記事は、その放送回をもとに構成しています。ぜひ番組本編もあわせてご覧ください。

有限会社 元祖鯱もなか本店 専務取締役 古田憲司

古田 憲司(ふるた けんじ)

業種:和菓子製造・販売

主な商品:名古屋土産「元祖 鯱もなか」ほか名古屋らしい菓子

創業:118年(番組公開時点)

所在地:愛知県名古屋市

創業118年。名古屋の街なかで100年以上、鯱の形のもなかをつくってきた菓子店が、2020年、静かに店を閉じようとしていた。後継者はいない。そこへコロナが重なった。

その家業を、妻の家業として継いだのが古田憲司だ。継いだ時点で従業員はゼロ。役員報酬を取らずに走った時期もある。それから4年。売上は「今期でいくと、10倍以上」になった。

武器はSNSだった。Xの公式アカウントを自ら運用し、ファンの声から地元アイドル、ラーメンチェーン、海外のパンケーキ店へとコラボを広げてきた。

早朝のジムから夜のラジオ収録まで。番組は古田の1日に密着した。出発点は、「本当に何もなかった」という承継の日だった。

この記事でわかること

  • 創業100年超の菓子店が、廃業の一歩手前から売上10倍以上になるまで
  • 鯱もなかの「上品な甘さ」と、香ばしい皮を支えるつくり方
  • フォロワーの一言が大手とのコラボにつながる、SNSの「型」
  • 地方の老舗が、コロナ禍の通信販売で見つけた勝ち筋
  • 「会社は箱」──経営者がデザインすべきもの
  • 何者でもない人が、経営者に近づくための最初の一歩
目次

事業を一言で言うと、名古屋のお土産「鯱もなか」をつくる菓子店です

朝6時半、名古屋市内のフィットネスジムから出てきたのが古田憲司だ。仕事を聞くと、こう答えた。

「今は、和菓子屋というか、菓子製造の会社の経営をしています。メインの商品が、名古屋のお土産の『鯱もなか』っていうお菓子を作ってまして、それ以外にも、名古屋らしいお菓子を製造してますね」

経営に携わって4年目。会社を立ち上げたわけではない。

「うちの奥さんが今、社長やってまして、妻の方の家業の菓子屋をですね、継いで今に至るっていう感じですね」

畑違いの世界から、100年以上続く家業に入った。それでも古田の口から出るのは、守ることと変えることの両方だ。

「やっぱり時代ってどんどん変わっていくので、変えていくものと残していくもの、どっちも大事にしていきながら、でもやっぱり生き残っていくっていうところがすごい本当に大事かなと思ってるんで、日々ね、頑張ってやってるという感じですね」

朝はジム、朝ご飯、それからお参り。誰よりも早く1日を始める

朝のルーティンで神社に参拝する古田
朝のルーティンで神社に参拝する古田

早起きの理由を聞くと、答えは実感だった。

「やっぱり早起きした方が1日が長く感じるので。なんかね、飲み会とかで遅くなっちゃうこともあるんですけど、やっぱりそういう日より早く起きた時の方がコンディションもいいし」

起きたらジムへ行き、朝ご飯を食べ、神社にお参りする。参拝は週の半分ほど。何を祈っているのかと聞くと、即答だった。

「関わる人の幸せを願ってます。家族から、従業員から、お客さんから、フォロワーさんから」

フォロワーまで、と驚かれると、古田は付け加えた。「フォロワーさん6万人いるので、幸せでありますようにって」

そのあとは会社に向かい、社員が出勤する前に自ら納品に回る。専務という立場なら人に任せるのが普通ではないか、と聞かれると、こう返した。

「うちも元々継いだ時、その従業員0の状態からやってきてるので。なかなか人にまだ任しきれてない部分も多くって。徐々に徐々にっていう感じで、できることはもう自分でやっちゃってますね、今のところ」

上品な甘さと、水分が染み出さない「ベストな配合」

あんこをじっくり炊き上げる製造工程
あんこをじっくり炊き上げる製造工程

鯱もなかで一番大事なのは、あんこだ。番組は製造工程を特別に見せてもらった。レシピは言えない。それでも、他と違うところはどこか。

「お客様から言われるのは、その上品な甘さっていうとこで言われるんですけど、あとやっぱりもなかに入れた時のバランスですよね。甘さ」

「もちろん甘いんですけれども、甘すぎないっていうところと、あとはもなかに入れた時に、水分がこう染み出さないような、そういうちょうどいい、ベストな配合っていうところで、やっておりますね」

じっくり炊き上げて甘さを引き出す。売れる時期で、1日に「1000とか、1000から2000、もうちょい」という。配合から製法までは自社のもので、公開していない。レシピはデータではなく、紙で残っている。

皮にもこだわりがある。試食した聞き手が、時間が経っても香ばしさが残ることに驚くと、古田は理由を説明した。

「もなかの皮って餅じゃないですか。だから結局(中略)焼き加減によって決まってくると思うんですよ。だからそこの軽い食感と香ばしさ、そこはこだわって作ってます」

「これ甘すぎても、しんなりしすぎても、どっちでもダメだと思うんですよ」

和菓子工場で3年ほど働いた経験があるという聞き手も、古い機械を何十年も使い続ける製法の丁寧さを挙げた。聞き手によれば、古田から聞いたあんこの糖度は一般的なものより低い。

「何十年前に食べた」。100年続く味が、誰かの思い出になっている

店内のイートインで味わう鯱もなか
店内のイートインで味わう鯱もなか

番組は来店客にも話を聞いた。徳島から訪れた客もいた。棋士・藤井聡太さんが口にした菓子として知って、足を運んだという。店内にはイートインもあり、その場で味わえる。

顔がついた鯱の形は「可愛い」と言われることが多い。そして、お土産にもらったら忘れない。その話になると、古田は100年という時間の話をした。

「やっぱりそれが本当にポイントでして。うちも100年やってるじゃないですか。そうすると、結構何十年前に食べたとか、なんかその、ばあちゃんが好きだったんだよ、みたいな、そういったこと言ってくれることがあったりするんですよ」

「そういうの聞くと本当に続けてよかったなと思いますし、今子供だったり若者だったりする人が、また大人になった時にそう思ってもらうためには、これからも続けていかないとなって思うんですよね」

今子供だったり若者だったりする人が、また大人になった時にそう思ってもらうためには、これからも続けていかないとな

2020年、「やめよう」というところまで来ていた

V字回復の前は、どれほど厳しかったのか。聞き手が踏み込むと、古田は2020年の話から始めた。

「元々その先代は後継者を育てていなかったので、年になったら、次の世代には通さずにやめるっていうことをずっと言ってたんですよ」

それでも細々と続けていた。そこにコロナが来た。

「コロナが来てしまうと、その細々とやっていくことさえ許されなくなるというか。で、これはもういよいよ潮時だなっていうことで、じゃあやめるかと。もうやめようっていうところまで来ていたんですね」

本来なら、なくなっていたかもしれない。そう聞かれると、古田ははっきり言った。

「もうなくなってたと思います」

Facebookで出してみたら、「思いのほか、めちゃくちゃ売れた」

それでも、継ぐと決めた。きっかけは、試しに動いてみたことだった。SNSのアカウントを立ち上げたのも、ちょうどその頃だ。

「最初はFacebookで、コロナで困ってる事業者の、なんか野菜なり魚なりを安くまとめて売りますよ、みたいな(取り組みが)ありましたよね。で、最初あれに出してみたら、もう思いのほか、めちゃくちゃ売れたんですね」

コロナで店にも客は来ない。それでもSNSなら売れるかもしれない。移動ができない時代に、ネットとSNSで通信販売をする。

「どうせ苦しいし、でもこのままほっといたらなくなっちゃうんだったら、もうこのタイミングで腹くくってやるしかないんじゃないかなと思って。じゃあもうSNSでやろうと決めて、やってみたっていう感じですね」

このままほっといたらなくなっちゃうんだったら、もうこのタイミングで腹くくってやるしかない

「ここからやるしかない」。報酬ゼロで、まず売上をつくった

図解:廃業目前から売上10倍以上へ。2020年の「もうやめよう」から、SNSでの再出発まで
廃業目前から売上10倍以上へ。2020年の「もうやめよう」から、SNSでの再出発まで

継いだ瞬間を振り返ってもらうと、古田は短く言った。

「継いだ瞬間は、本当に何もなかったので、本当に、ここからやるしかないっていう思いでしたね。やっぱりまずは売上を作るしかない。そこに本当にフォーカスして、必死で頑張ってましたね」

役員報酬は、しばらく取っていなかった。本人の言葉では「半年間から、もうプラス1年ぐらいですかね」。それでも立て直す自信はあったという。

「立て直す自信は、ありましたね。やっぱりやれてないことがあると思ったんですよ。それが今の時代に合わせたSNSとか、その関係の、ネット周りのことですよね。その辺が全然できてなかったので、そういうウェブマーケティングみたいなことをしっかりやっていって、で、全国にその届けていくっていうところに勝ち筋はあるんじゃないかとは思ってましたね」

先代の驚きを物語る話もある。プリンをSNSで売ってくれないか、というやり取りがあった。古田がインスタグラムで広告を回すと、その日のうちに全部売れた。

「そうしたらですね、先代が勘違いをして、これは神様のおかげだって言ったんですよ」

インスタ広告を回したから売れたのだと返すと、「インスタっていいね」という空気になった。古田はその場面を「結構面白かった」と話した。

フォロワーの「コラボしてください」に、公式が乗る。それが型になった

図解:Xから始まるコラボの「型」。フォロワーの声に公式アカウントが乗り、人気グループとのコラボへ
Xから始まるコラボの「型」。フォロワーの声に公式アカウントが乗り、人気グループとのコラボへ
Xから始まるコラボの「型」を語る古田
Xから始まるコラボの「型」を語る古田

古田が継いでから「できるようになったパターン」がある。コラボだ。

「Xから始まるコラボが、1つ型みたいなものが出来上がりまして」

仕組みはこうだ。公式アカウントが何かに挑戦したり、問いかけたりする。フォロワーとのやり取りの中で、ファンが応援してくれる。

「そのフォロワーさんが、ファンのもの、人気があるもの、それがアイドルグループだったりとか、そのスポーツチームだったりするんですけど、そういうものとコラボしてください、みたいな一般の方からの働きかけがあるんですけど、それに対して、弊社の公式アカウントが被せていくことで、本来のその人気のあるアイドル、スポーツチームとか、影響力のある方とのコラボにつながっていくっていうのが、結構パターンとして出来上がりまして」

「最初は奇跡みたいなことだなと思っていて、今でもそう思ってるんですけど、そういうことがもう次々と起こっていった」

最初は地元のアイドルグループ・TEAM SHACHI。そこからSKE48、地元のラーメンチェーン・スガキヤ、アメリカのパンケーキチェーン「オリジナルパンケーキハウス」。直近ではポケモンとのコラボも挙げた。

X の公式アカウントは、古田自身が「中の人」として運用している。

「毎朝の挨拶から始まって、名古屋城に行ったら名古屋城の投稿をして、もう、日常的にもう大量に投稿はしていますね」

プレゼントキャンペーンや新商品の告知に加えて、歴史や、事業者としての思いも発信する。すると、応援のコメントが「めっちゃついたりする」。

「まだね、ちっちゃい会社だからできることだと思うんですけど、そういう思いとか、そういうところはしっかり発信していくようにしてますね」

名古屋のお土産の「ポジションが今、空いている」

4年前から言い続けていることがある。

「この鯱もなかを、名古屋名物といえば鯱もなかだよねっていうぐらいまで持っていきたいなっていう風に思っていて」

理由は、名古屋土産の現状にある。ういろうなどはあるが、名古屋駅で実際に買われていくのは、赤福やうなぎパイといった「名古屋のものじゃないもの」が多いという。

「それはそれで、すごく美味しくて、いいお土産なんですけど、せっかくね、名古屋の(中略)としてやっていく以上、名古屋のお土産はこれだっていうものを、1個打ち立てていきたいなってのがあって。逆にそこのポジションっていうのが、今空いてるんじゃないかなって思ってるんですよね」

名古屋のお土産はこれだっていうものを、1個打ち立てていきたい

その視線は、国外にも向いている。

「グローバルに見た時に、東京も北海道も沖縄も名古屋も(中略)。だから、日本のお土産といえば、この鯱もなかというクールなやつがあるらしいぜ、みたいな。なんかそんな風に思ってもらえるような、鯱もなかを中心として(中略)僕は中心となって発信していく、そんなことができたらなと思っています」

名古屋城の金の鯱がどんなものなのか、地元の人も意外と知らない。古田は、鯱もなかを地域資源として捉えている。

「今私は、ありがたいことに100年の歴史をこう使わせてもらえる立場になったので、だから発信していく。名古屋のことについて発信をしていく。で、それが地元を盛り上げるっていうことにつながっていくと思うんですけど、そうすると鯱もなかもやっぱり売れるじゃないですか」

100年の歴史をこう使わせてもらえる立場になったので、だから発信していく

「会社って、箱だと思うんですよね」

早朝からルーティンをこなし、夜はラジオ局へ向かう。古田は、3年続くラジオのレギュラー出演者でもある。きっかけはSNSで、パーソナリティとX(旧Twitter)とインスタグラムでつながっていた縁だった。

そんな古田に、会社とは何かと聞いた。答えは一語だった。

「会社って、まあ箱だと思うんですよね」

「人が集まってきて、で、日々を、わちゃわちゃと過ごす(場所)だと思うんですよ。だからその箱の中がどうなってるかっていうのは、もうその会社ごとに全く違うから、箱としか言いようがない」

では経営者がやるべきことは何か。

「経営者としてやるべきなのは、それがどんな箱なのかっていうのを決めて、で、なんかみんな同じ方向をね、向いて、進んでいくことかな」

一言で言うなら、経営は「箱のデザイン」だという。

「その箱の中に、たまたま偶然集まっただけなんですけど、でもやっぱりみんな選んできてるわけじゃないですか。給料で選ぶのか(中略)色々ありますけど、でもやっぱり、そこがいいなと思って来るわけじゃないですか。で、それをデザインするんですよ。で、なおかつ中身もですよね。1回入った人たちが、どこに向かっていくのか」

で、それをデザインするんですよ

「まずやってみる」。経営者を目指す人へ

失敗からできるようになったことで、大切にしていることを一言で。そう聞かれて、古田はこう答えた。

「まずやってみるってことですね。挑戦するってことですね。うまくいくかどうかわかんないですけど、まずやってみる」

ラジオの1回目は「めちゃくちゃ緊張した」。それでも続けた。

「どんなことでも、やっぱ最初ってできるかどうかわかんないですけど、まずやってみてっていうのはすごい大事かなと思ってます。何回かやってるうちに絶対うまくいく、っていうのは、このラジオの経験もあるし、自分の実感から、そうなのかなって思ってますよね」

ただし、全部を続ける必要はない。Xは自分に合っていたから続いている。TikTokは合わなかったのか、やめた。

「やっぱりうまくいったことだったりとか、自分が得意なことだったりとか、苦手じゃないことというか、やっぱ自分に合ったことで自然と続いていくなって思いますよね」

では、経営者を目指す人は何から始めればいいのか。

「なりたい人に近づく。物理的に近づいたらいいと思いますね。経営者になりたいってことは、多分ね、誰かモデルとなる人がいると思うんですけど、やっぱ行ってみるっていうのがいいんじゃないかなと思いますけど」

もし古田に憧れて、誰かが訪ねてきたら。

「なんか時間使ってくれるんだったら、めっちゃ嬉しいってなりますよね」

まずやってみるってことですね


▶ 動画で見る

THE BOSS(ザ・ボス)#003「新型コロナ・倒産の危機からV字回復!創業118年、名古屋銘菓の仕掛けた戦略とは!?」

https://www.youtube.com/watch?v=INNiRGt3I7k

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「元祖 鯱もなか」について

商品

名古屋土産「元祖 鯱もなか」ほか、名古屋らしい菓子の製造・販売

こだわり

上品で甘すぎないあんこと、水分が染み出さない配合/軽い食感と香ばしさの皮

販売数

売れる時期で1日1,000〜2,000個、それ以上も(取材時のお話)

本店

店内にイートインスペースあり

これまでのコラボ(番組内で言及)

TEAM SHACHI/SKE48/スガキヤ/オリジナルパンケーキハウス/ポケモン

目標

「名古屋名物といえば鯱もなか」/日本のお土産として世界に

オンラインショップ

https://shachimonaka.com/collections/all

取扱店舗一覧

https://shachimonaka.com/pages/store

古田憲司氏の略歴

2020年

コロナ禍で、家業は廃業を考えるところまで追い込まれる。FacebookやSNSでの販売を試み、手応えを得る

承継

妻の家業を承継し、専務取締役に。従業員ゼロからの再出発

以後

X公式アカウントの「中の人」として発信。コラボを次々に実現。ラジオのレギュラー出演(取材時点で3年)

承継から4年

売上は「今期でいくと10倍以上」(取材時のお話)

有限会社 元祖鯱もなか本店 会社概要

社名

有限会社 元祖鯱もなか本店

専務取締役

古田憲司

所在地

愛知県名古屋市

創業

創業118年(番組公開時点)

事業内容

和菓子の製造・販売

公式サイト

https://shachimonaka.com/

番組本編はYouTubeでご覧いただけます

密着の様子は、壇蜜さんと道川内 知がMCを務めるYouTube番組「THE BOSS 〜経営者のルール〜」で公開中です。記事では伝えきれない現場の空気を、ぜひ映像でご覧ください。

▶ YouTubeで番組を見る

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